孤独と情熱が交錯する、ブラームスの晩年
ヴァレリー・アファナシエフ演奏によるブラームスの「後期ピアノ作品集」。 このCDを初めて聴いた時、私はまるで深海に潜っていくような感覚に襲われました。ピアニズムの技巧をひけらかすのではなく、作曲家ブラームスの内面に深く迫ろうとするアファナシエフの姿勢が、ずっしりと重い響きとなって心に響きます。
収録曲について
収録されているのは、Op.116、Op.117、Op.118、Op.119という、ブラームスが晩年に作曲したピアノ作品群です。これらの作品は、ブラームスの人生経験からくる諦観や孤独、そして抑制された情熱が色濃く反映されていると言われています。
- Op.116 7つの幻想曲:
- 激しい感情の爆発と、静寂が共存する組曲。
- 第3曲のCapriccioは、特に技巧的で聴きごたえがあります。
- Op.117 3つの間奏曲:
- 内省的で、瞑想的な雰囲気を持つ作品。
- 第1曲は、子守唄のような優しい旋律が印象的です。
- Op.118 6つの小品:
- 多様な感情が表現された、バラエティ豊かな作品集。
- 第2曲の間奏曲は、特に人気が高く、美しい旋律が心を打ちます。
- Op.119 4つの小品:
- 簡潔ながらも、深遠な表現力を持つ作品。
- 第3曲の間奏曲は、憂いを帯びた旋律が印象的です。
アファナシエフの演奏について
アファナシエフの演奏は、一言で言うと「重い」です。しかし、それは単にテンポが遅いとか、音量が大きいという意味ではありません。彼の演奏は、ブラームスの音楽に込められた感情の深さを、徹底的に掘り下げようとする意志の表れなのです。特に、低音の響かせ方、和音の構成に工夫が凝らされており、他のピアニストの演奏とは一線を画します。
グレン・グールドの演奏と比較すると、グールドは明晰で知的な解釈を重視するのに対し、アファナシエフはより感情に訴えかけるような、人間味あふれる演奏をしています。
実体験に基づくレビュー
私はこのCDを、夜、静かに一人で聴くことが多いです。部屋の明かりを消して、目を閉じると、ブラームスの音楽が、まるで自分の人生を振り返っているかのように、心に染み渡ってきます。特に、Op.118の第2曲の間奏曲は、何度聴いても涙が出そうになります。過去の恋愛の記憶や、失われた時間への郷愁が、音楽を通して呼び起こされるのです。
このCDを聴いてから、私はブラームスという作曲家に対する理解が深まりました。彼の音楽は、単なる美しいメロディーの集まりではなく、人間の心の奥底にある感情を表現したものなのだと、改めて感じました。
メリット・デメリット
メリット:
デメリット:
- アファナシエフの演奏は、好みが分かれるかもしれない(特に、軽快な演奏を好む人には向かない)。
- CDの価格がやや高めである。
競合製品との比較
ブラームスの後期ピアノ作品集は、様々なピアニストが演奏しています。例えば、アルフレッド・ブレンデルの演奏は、非常に完成度が高く、安定感があります。しかし、アファナシエフの演奏は、ブレンデルの演奏とは異なり、より感情的で、人間味あふれるものです。また、ポリーニの演奏は技巧的ですが、アファナシエフのような深みは感じられません。そのため、どのピアニストの演奏を聴くかは、個人の好みに大きく左右されるでしょう。
まとめ
ヴァレリー・アファナシエフの「ブラームス:後期ピアノ作品集」は、ブラームスの音楽の深さを知りたい人、感情的な演奏を好む人におすすめのCDです。夜、静かに一人で聴くことで、心が癒され、豊かな時間を過ごすことができるでしょう。